小さな願いのセレナーデ
まさかのきっかけがシューベルトとは、非常に珍しいパターンだなと。

「ちなみに何の曲なんですか？」
「Piano Trio No. 2の…」
「ああはい。『ピアノ三重奏曲第2番変ホ長調 作品100ドイッチュ番号（D）929』ですね」
「おぉ、さすがだね。正式名称がすぐ出てくるのは」

私が特に、この曲名がパッと出てくるのには訳がある。

「実は私もすごく好きなんです」
「そうなの？」
「えぇ、特に第二楽章が好きで」
「本当に？！」

彼は目を丸くさせて、私を見つめた。
「自分も第二楽章が凄く気に入ったんだ」と。

「悲しみの中にある美しさって言うのかな。すごくメロディーが美しいと感動したんだ」
「わかります、儚くて美しいって感じの曲ですよね」

この曲はシューベルト晩年の名曲で、晩年のシューベルトならではの深い悲愴感を垣間見せる曲だと言われている。

「特にチェロの主題…メインの旋律は、よくバイオリンでアレンジして弾いたりするんです。それぐらいお気に入りで……」

そう言うと彼は、身を前に乗り出した。
「ねぇ、ここで聞かせてくれない？」
「えっ？」
「一度君の演奏を聞いてみたい」
「あ、はい。いいですよ」


聞いてみたいと言われ、悪い気はしなかった。
まぁここは広場だし、少しなら良いだろう。
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