小さな願いのセレナーデ
そしてようやく「始めましょう」と、全員が音を出してのチューニングが始まった。
(何?これ……)
私は思わず、バイオリンを落とした。
初めて音が──楽器の音が、気持ち悪いと思った。
オーケストラの色々な楽器の重なる音が、少しづつ弛んで、ブレて聞こえる。
楽器の音の全てが大きな波をうち不協和音に聞こえてしまった。
「下里さん!」「大丈夫?!」
先輩の呼ぶ声を遠くに聴きながら──意識が遠くなって行くのを感じていた。
「はっきり症状が出たのは事故から二週間後、リハーサル中に倒れて病院に搬送されたの。下された診断は、慢性硬膜下血腫だった。あの衝撃で、徐々に脳内に血が溜まっていってたみたいだった……」
CTスキャンの画像を見せられると、貯留の程度としてはごく軽度だと。気付くのが奇跡だとも言われた。
ただ場所が悪かった。その一言に尽きた。
その後、手術をして血腫は取り出された。
だけど一度歪んでしまったものは……戻らなかった。
(何?これ……)
私は思わず、バイオリンを落とした。
初めて音が──楽器の音が、気持ち悪いと思った。
オーケストラの色々な楽器の重なる音が、少しづつ弛んで、ブレて聞こえる。
楽器の音の全てが大きな波をうち不協和音に聞こえてしまった。
「下里さん!」「大丈夫?!」
先輩の呼ぶ声を遠くに聴きながら──意識が遠くなって行くのを感じていた。
「はっきり症状が出たのは事故から二週間後、リハーサル中に倒れて病院に搬送されたの。下された診断は、慢性硬膜下血腫だった。あの衝撃で、徐々に脳内に血が溜まっていってたみたいだった……」
CTスキャンの画像を見せられると、貯留の程度としてはごく軽度だと。気付くのが奇跡だとも言われた。
ただ場所が悪かった。その一言に尽きた。
その後、手術をして血腫は取り出された。
だけど一度歪んでしまったものは……戻らなかった。