小さな願いのセレナーデ
安らげる居場所
(ええっと……『すいません!補講の連絡忘れてました!』って………来ちゃったよ………)
いつもの水曜日の出張レッスン前。
インターフォンを押す前に、何気なく携帯を見たら、瑛実ちゃんから連絡がきていた。
もう二十分も前に、連絡をしてくれていたらしい。
(うーん、じゃあ帰…)
「晶葉先生」
振り向くとそこに、買い物袋を下げたユキさんが立っていた。
「すいません、補講だという連絡に今気付きまして」
「あぁそうですか。だったらお茶でも飲んでいってください」
「いえ、そんな」
「ザッハトルテ、食べたくないですか?」
一瞬ぱっと目が輝いたのを見逃さなかった。
ユキさんはクスりと笑って、私の腕を掴む。
「さぁさぁ、頂いてってくださいね」
そして私は、ユキさんに部屋へと連れていかれた。
ユキさんは、昂志さんと私が何かあった関係であることは、薄々感ずいているみたいだ。
何だか二人の間を、微妙に取り持つような立ち振舞いをしている。