小さな願いのセレナーデ
そう、私の音は……良い意味でも悪い意味でも、穏やかで、回りと調和する音だと言われているのだ。飛び抜けて強い個性も、人を惹き付ける何かがあるわけではない。だからコンクールは最高でも三番手止まり。
だけど、色んな人の音と調和するという点では、オーケストラの一員と言うカテゴリーは最適なのかも知れないが。
彼は皮肉が通じなかったのか、頭を傾げた。
「僕は演奏のこと全くわからないけど、君の演奏は好きだと思ったから。それは覚えておいて」
そう言ってにっこりと笑った。
「すいません、そろそろ時間が……」
「悪かったね、わざわざ聞かせてくれて」
時計を見ると、もう大学に戻らなければ行けない時間だった。
立ち上がりその場を後にしようとするが、なぜか動けなかった。それは彼も同じようで、何か言いたそうにこちらを見つめている。
──せっかく、だしね。
こんなウィーンの片隅で、偶然日本人と出会うなんて。この人とこれっきりにするのは、やっぱり惜しい。
「あの、シューベルトに興味を持ったんでしたら、明日の夜に聖アンナ教会のコンサートで弦楽四重奏曲第12番を演奏しますよ。私も行くんですが、その曲もオススメなんです」
勇気を出して、彼に伝えてみた。
すると彼は「わかった」と頷く。
「では、また明日会おう」
そうして手を振り、私達は別れた。
最後の言葉は、半分だけ信じることにして。
だけど、色んな人の音と調和するという点では、オーケストラの一員と言うカテゴリーは最適なのかも知れないが。
彼は皮肉が通じなかったのか、頭を傾げた。
「僕は演奏のこと全くわからないけど、君の演奏は好きだと思ったから。それは覚えておいて」
そう言ってにっこりと笑った。
「すいません、そろそろ時間が……」
「悪かったね、わざわざ聞かせてくれて」
時計を見ると、もう大学に戻らなければ行けない時間だった。
立ち上がりその場を後にしようとするが、なぜか動けなかった。それは彼も同じようで、何か言いたそうにこちらを見つめている。
──せっかく、だしね。
こんなウィーンの片隅で、偶然日本人と出会うなんて。この人とこれっきりにするのは、やっぱり惜しい。
「あの、シューベルトに興味を持ったんでしたら、明日の夜に聖アンナ教会のコンサートで弦楽四重奏曲第12番を演奏しますよ。私も行くんですが、その曲もオススメなんです」
勇気を出して、彼に伝えてみた。
すると彼は「わかった」と頷く。
「では、また明日会おう」
そうして手を振り、私達は別れた。
最後の言葉は、半分だけ信じることにして。