小さな願いのセレナーデ
夜の七時半を過ぎた頃。
私はウィーンの中でも最もウィーンらしい、ケルントナー通りを歩いている。道の両側には、歴史あるカフェやショップ、ホテルなどが立ち並び、見ていて飽きない場所だ。
そしてスマホのマップをたよりに横道に入る。
目的地は、コンサートが行われる聖アンナ教会。


(ここ、だよね?)
スマホのナビが示した場所は、クリーム色のシンプルな建物。かろうじて塔が見えるので教会と確認はできる。シンプルな外観だと聞いていたが、確かに一見すると教会には見えない。
だけど内部に入ると驚いた。
『ウィーンで最も美しいバロック調の教会と言われている』とガイドブックのとおり、雄大で美しい景色が広がっていたのだ。
特にひときわ目を引くのは、色鮮やかな天井フレスコ画だ。

(やっぱ、すごい……)
隅っこに腰かけて、ぼーっと辺りを見渡す。
やはりそこそこ人気はあるようで、せわしなく人が行き交っている。

隣に気配を感じると──「こんばんわ」と言う声がする。昨日会った彼、久我さんだ。
ペコリと頭を下げて挨拶をする。

「今日はまた、少し感じが違うね」

昨日は学校の合間に行ったので、チノパンにカットソーのラフな姿をしていた。
今日は着替えに戻ったので、シャツワンピースを着て、髪も少しアレンジして結っている。
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