No rain,No rainbow
「…背中、を…」

私を長い間、見つめた律さんは、そんな風につぶやいた。

「…背中…?」

律さんの目は怯えているようで、不安が、色濃く貼り付いている。

「律さん」

ただ、真っ直ぐに、律さんの名前を呼ぶことしかできなくて。

そんな自分が、歯がゆくて仕方がない。

「…電気を、つけてもらえませんか?」

ひどく疲れた声で、律さんが言った。

月明かりにぼんやり照らされた横顔が、表情をなくしてゆく。

その変化に戸惑って、急いで電気をつけた。


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