No rain,No rainbow
強く引いたのに、それ以上の強さの店長の手のひら。

熱い。

思ったのは、それだけ。

その熱さがあの日々を、耐え難いあの日々をフラッシュバックさせそうになって、必死に堪える。

「手、ダンボールでいっぱい切ってるでしょう?かわいい手が台無しだ。だから早く、レジを覚えて欲しいんですよ。ね?」

何事も無かったように、私の手を離した店長。

手首に残った熱が火傷のようにヒリヒリ痛い。

その後の記憶が、ない。

気がついたら、自分のロッカーの前に座り込んでいた。

大丈夫、大丈夫。

自分に言い聞かせる。

いつの間にか、ロッカーのちいさな窓の外から雨の音がしている。

無意識のうちに、ロッカーの置き傘に手を伸ばして立ち上がった。


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