No rain,No rainbow
従業員用の両開きの扉を強く押した。

大丈夫。

この負の感情は、今、この場所に置いてゆく。

だから、大丈夫。

もう、忘れる。

忘れてしまえ。

自分自身に暗示をかけて、正面玄関を抜ける。

強く降る雨が疎ましくて、思わず空を睨んだ。

「…あなた、そんな顔もするんですねぇ」

その声に、ばっと目線を下げる。

下げた先には、

「よく、会いますね?」

ひさしの下、しゃがみ込みながら手をひらひらさせる、林檎の、ひと。



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