彼と彼女の好きなもの
3. 彼女 ②
◇ ◇ ◇
「はい」
「ありがとう」
僕は淹れたてのコーヒーを、2人掛けのダイニングテーブルに向かい合わせに二つ置く。
「今日のコーヒーは……」
「ストップ!」
彼女が遮るように手を広げながら強い口調で言った。
「何だよ」
「蘊蓄いらないから。静かに飲ませてよ」
「知ってると違うだろ。知識増やせよ、そこは」
いらねーと、彼女は心底嫌そうに言いながら、やっぱりカップを手にする。
「嫌なら飲まなきゃいいだろ」
「なんでよ。美味しいもん。飲むに決まってるでしょ」
そう言って一口飲むと、満足そうににっこりとした。
「調子いいよな、いつも」
言いながら僕も満足して自分のコーヒーに口をつける。僕の好みで酸味より苦味が強い。
狭くて個性のないアパートが、コーヒーの香りに包まれる。
「あ、そろそろDVD返さなくっちゃ。それとも、もう一回見る?」
「いらん」
「えーいいのー?」
彼女の言い方はどこそこ意地悪だ。
「あんな、考察する必要もないB級の破綻したゾンビ映画なんて一回見れば……」
「そんな事言って」
彼女はにやにや笑いながら立ち上がって僕の方に来る。
「来るなよ」
「知ってるんだからね。君が半分くらい目をつぶって見てたの」
そう言って後ろから覗き込む。
「見てもしょうがないから寝てただけで……」
「またまたあ」
笑いながら彼女が腕で首を絞めるようなふりをする。
「やめろって」
僕は笑うのを我慢しながら振り払うようなふりをする。彼女は笑いながら僕に抱きつく。
その笑い声を耳元で聞きながら顔を上げると、安っぽいサッシの枠に切り取られた空の綺麗な青が目に入った。
あの空はいつだったか。
◇ ◇ ◇
「はい」
「ありがとう」
僕は淹れたてのコーヒーを、2人掛けのダイニングテーブルに向かい合わせに二つ置く。
「今日のコーヒーは……」
「ストップ!」
彼女が遮るように手を広げながら強い口調で言った。
「何だよ」
「蘊蓄いらないから。静かに飲ませてよ」
「知ってると違うだろ。知識増やせよ、そこは」
いらねーと、彼女は心底嫌そうに言いながら、やっぱりカップを手にする。
「嫌なら飲まなきゃいいだろ」
「なんでよ。美味しいもん。飲むに決まってるでしょ」
そう言って一口飲むと、満足そうににっこりとした。
「調子いいよな、いつも」
言いながら僕も満足して自分のコーヒーに口をつける。僕の好みで酸味より苦味が強い。
狭くて個性のないアパートが、コーヒーの香りに包まれる。
「あ、そろそろDVD返さなくっちゃ。それとも、もう一回見る?」
「いらん」
「えーいいのー?」
彼女の言い方はどこそこ意地悪だ。
「あんな、考察する必要もないB級の破綻したゾンビ映画なんて一回見れば……」
「そんな事言って」
彼女はにやにや笑いながら立ち上がって僕の方に来る。
「来るなよ」
「知ってるんだからね。君が半分くらい目をつぶって見てたの」
そう言って後ろから覗き込む。
「見てもしょうがないから寝てただけで……」
「またまたあ」
笑いながら彼女が腕で首を絞めるようなふりをする。
「やめろって」
僕は笑うのを我慢しながら振り払うようなふりをする。彼女は笑いながら僕に抱きつく。
その笑い声を耳元で聞きながら顔を上げると、安っぽいサッシの枠に切り取られた空の綺麗な青が目に入った。
あの空はいつだったか。
◇ ◇ ◇