まき
異変
良と仲良くなれた···。
という嬉しさが心のどこかにあった。
初めてあった時は怖くて、不良だし嫌いだって思った。凄い嫌な奴って。だけど本当は女嫌いなだけで、口が悪いけれど、話せば分かる人。
少しだけれど、お姉ちゃんのことを相談できた。
だけどもそれは、全てが解決したって事にはならなくて。
『明日 学校終わったら来い』
スマホに映し出される画面を見て、ズキズキと、一瞬下腹部が痛くなった。
良が家まで送ってくれたあと、良にバレずに家を抜け出して晃貴の所に行っていた。
でも、きちんと話し合った今では。
『放課後、彼氏と遊びます』
そうメッセージを送ると、良からは『分かった、場所と帰る時間だけ教えろ』と返事が来た。それから『男が送られない時だけ連絡しろ』と、後から遅れて届いた。
彼氏じゃない。
場所も教えるわけにはいかない。
晃貴のマンションを言ったらバレてしまうから。
晃貴が私を送るわけない。
男が送られない時ってことは、良が迎えに来るってこと。
良に嘘を付きたくないけど···。
『分かった。ありがとう。送ってくれるから大丈夫だよ』
そう送ってスマホを閉じた。
二日ぶりの晃貴···。
この前、晃貴様子はおかしかった。
抱かれながら唇を噛む私にずっとキスしてきて···。
自然と、私の手は唇にふれていた。
自身の歯で傷つけた出血が出た瘡蓋はもう、治りかけていた。
────ピンポーン···
ここのチャイムを鳴らすのはもう何度目だろう。
このチャイムを鳴らす回数は、私が晃貴に抱かれた回数。晃貴のたまり場からここに来るのを含めたら···。
「早いな」
呼び出したのは晃貴なのに···。
「学校から直接きたから」
そう言って、いつも通りに玄関のなかに入った。
靴を脱いでる間、晃貴はどうしてか私の方を見ていた。なんだろう?と心の中で思う。いつもなら玄関の扉をあけたあと、すぐに自分の部屋に行くのに。
「真希」
なに?
名前を呼ばれて晃貴を見ると、晃貴の腕が私の方へと伸びてきていた。
えっ、
気づいた時には中途半端に靴は脱げて、晃貴の方へと引き寄せられていた。
その拍子に持っていた鞄も落とし、教科書が入っいる鞄の鈍い音が廊下に広がる。
「こ、こう、き?」
引き寄せれ、いつの間にか私は壁に押し付けられていた。背中に痛みはないけれど、結構強い力で。
こんなこと初めてだった。
いつも部屋に行っていたのに。
晃貴の手が、私の顎を掴む。
「や、やだ···」
怖くなり、少しだけ晃貴の胸元を押した。
だけどもピクリとも動かない晃貴。
「やだ、じゃねぇだろ」
「な、に···?」
恐る恐る晃貴の顔を見ると、いつもと変わらない爽やかな顔がうつる。その顔は少しずつ近づいてきて···、小刻みに震えている私の唇を塞いだ。
ずっとずっとキスをしてくる男…。
息がし辛い…。
未だ息を整える私に、晃貴は今度こそ私を連れて部屋の中に入っていく。冷房が効いた部屋、キスのせいで体が熱くなった私にとってはすごく気持ちいいけれど。
「ま、まって···」
私をベットへと連れ込んだ晃貴は、またキスをするのか顔を近づけてきた。
「なに?」
なに、じゃなくて···
「その、しないの···?」
いつもなら、すぐに下着を脱がされているに。
「してぇの?真希ちゃん」
爽やかな笑顔で聞いてくる晃貴。
「ちがうっ」
そういう意味じゃない。
どうしてこんなにもキスしてくるのか聞いてるの。
「痛てぇの、癖になった?」
そんなの、なるわけないっ。
あんなにも痛いのに
癖なんてありえない。
「なってないっ」
「なってねぇなら、いいだろ」
「こう、────」
押し倒され、また塞がれる。
顔の両側に腕を下ろされ、晃貴が上にいるから身動きが取れなくて。
「真希ちゃん」
また深々とキスをされた後、キスをやめた晃貴。
なに?
声を出したはずなのに、声はうまく出なくて。
「今から痛い思いしてするのと、こうやってキスすんの、どっちがいい?」
晃貴が意味の分からない事を言ってくる。
どちらかを選べってこと?
どうしてそんな急に?
「選ばねぇなら、どっちもするけど」
「や、だ···」
「どっち?」
そんなの、行為はしたくないに決まってる。
もうあんな痛い思いしたくない、
じっと私の目を見つめてくる晃貴は、いったい何を考えているのか。
「したい?」
そう言った晃貴の手が、私のスカートへと伸びていく。
「いや…」
咄嗟に晃貴の服を掴んだ。
「どっち?」
「するのは、やだ···」
そういう私に、晃貴は「ちげぇだろ」と少しだけ声が低くなった。
違う?何が?嫌って言ったのに。
「俺は、どっち?って聞いたんだけど」
晃貴の言いたいことは分かった。
私の口から言わせるつもりなんだ。
────キスがいい、と。
「やっぱり真希ちゃん、痛てぇの好き?」
違うっ、
違うっ!
もう、痛いのはやだ···。
「···キス」
「なに?」
「キスがいい······」
悔しい。
こんなのまるで、私が晃貴とキスしたいみたいだ。
すんなりと私の中から指を抜いた晃貴は、「俺とキスしてぇの?」と、意地悪そうに笑った。
確信犯だ。
脅されている私は、晃貴の玩具でしかない。
「最低······」
ポツリと呟いた私の声は、晃貴の唇によって消えた。
しばらくの間晃貴からのキスは止まることを知らなくて、いつの間にかキスに慣らされていた私は、自然と息をすることを覚えてしまった。
最後の方には強く抱きしめられながら、キスの間に晃貴は「真希···」と呼んだ。
「お前、夏休みいつから?」
晃貴の家から出ようとした時、ふと思いついたのかそんな事を言ってきた。
「···一週間後」
「そう」
まさか、夏休みも来いとか言わないよね?
「んじゃ、いつでも呼べんな」
晃貴は私の期待を裏切り、爽やかな笑顔で言う。
「暇だったら何か持ってくれば?」
そういった晃貴は「また連絡するわ」とフラフラと手をふった。何かって何を?
聞こうと思ったけれど、これ以上晃貴と話をしたく無かった。
鞄をぎゅっと握りしめ、玄関の扉を開けた。
キスのせいで火照る体。
下がるまで時間がかかったのは、きっと気温が高いせい。
「────···はよ···」
今日の朝の良は不機嫌だった。眉間にシワをよせて、鋭い瞳で私を見てくる。だけどもその表情が怖いと思わないのは、良と話し合いをしたからか。
「おはよう···」
この前まではどう見てもイライラして、先を歩いていた良は昨日から私を待ってくれる。
私が横に立つと、良が足を進める。
「昨日大丈夫だったのか?」
「え?」
昨日?
「男と会ってたんだろ?帰りとか何も無かったのかよ」
ああ、晃貴のこと···。
あとあと真っ直ぐ家に帰った。けれども何も無かった。良が心配することは何も。
「大丈夫だったよ」
そういう私に、良から返事が帰ってくることはなかった。やっぱり機嫌が悪いのかもしれない。
良の隣に立つと、細いけれど身長が高いことが分かる。きっと晃貴と同じぐらいだろう。晃貴も平均よりも高い。
あの手で抑え込まれ、
あの腕に抱かれ、
あの唇に何度もキスをされ、
外見と中身が全く違う晃貴を思い出す。
私はいつになったら晃貴に解放されるのだろうか。
晃貴は言っていた。私が脅されて抱かれ、その事に気づいた聖の顔が見たいと。
気づけば晃貴との関係は終わる。でも逆に聖が気づかなければ晃貴との関係は永遠に続く。
それまでに何回晃貴と会うことになり、何回抱かれるのだろう。何回あのキスを···。
もし今、良に相談すれば全てが終わるのだろうか。
ううん、それはダメ···。
きっと良は聖に言う。そうすればお姉ちゃんに伝わってしまう。相談なんて出来やしない。
私がこのまま我慢すれば、お姉ちゃんにバレることはないのだから。
「────···おい!真希!!」
その時、良の大きな声が聞こえた。
良の力強い手が、私の二の腕を掴み引き寄せられる。いきなりなに?と、ビックリして良の方を見つめようとすると、
「前見ろ、赤だぞ」
え?
あ···
考え事をしていたせいで、目の前の信号が赤色だったことに今更気づく。その瞬間、目の前で車が通り過ぎていて。
良がいなかったら轢かれていた。
「···ごめん、ありがとう···」
「気ぃつけろよ」
呆れたように良に言われる。
良は私の二の腕をはなした。
信号が赤なことを気づかなかった事に自分自身が驚く。そんなに考え事をしていたのだろうか?
「聞いてんのかよ?」
眉間にシワを寄せて、様子がおかしい私の顔を覗き込んでくる良。そんな良に何でもないと首を振る。
「···行くぞ」
「うん」
歩き出した良の後を追おうとした時、
────··ャ
なに?
いま、何か···。
「おい、真希」
「あ、ううん、ごめん。何でもない」
不機嫌な声に変わった良に焦って、私は青になっている信号を渡った。
誰かに見られてるような視線を感じたんだけど、気の所為だよね···。
学校へつく頃には、もう汗がにじみ出ていた。今から西高へ行く良を思うと、本当に申し訳なくなる。
私が晃貴に狙われているから、護衛をしてくれる良。でも本当はもう捕まっているから晃貴に狙われない。だから良が護衛をすること自体無意味···なのに。
良に言えないままでいる。
こんなの、良に嘘を付いているのと一緒なのに。
あと数日で夏休み。
携帯が鳴るたびに、晃貴からの呼び出しではないかとハラハラしたけれど。夏休みが始まるまで晃貴からの連絡が来ることは無かった。
という嬉しさが心のどこかにあった。
初めてあった時は怖くて、不良だし嫌いだって思った。凄い嫌な奴って。だけど本当は女嫌いなだけで、口が悪いけれど、話せば分かる人。
少しだけれど、お姉ちゃんのことを相談できた。
だけどもそれは、全てが解決したって事にはならなくて。
『明日 学校終わったら来い』
スマホに映し出される画面を見て、ズキズキと、一瞬下腹部が痛くなった。
良が家まで送ってくれたあと、良にバレずに家を抜け出して晃貴の所に行っていた。
でも、きちんと話し合った今では。
『放課後、彼氏と遊びます』
そうメッセージを送ると、良からは『分かった、場所と帰る時間だけ教えろ』と返事が来た。それから『男が送られない時だけ連絡しろ』と、後から遅れて届いた。
彼氏じゃない。
場所も教えるわけにはいかない。
晃貴のマンションを言ったらバレてしまうから。
晃貴が私を送るわけない。
男が送られない時ってことは、良が迎えに来るってこと。
良に嘘を付きたくないけど···。
『分かった。ありがとう。送ってくれるから大丈夫だよ』
そう送ってスマホを閉じた。
二日ぶりの晃貴···。
この前、晃貴様子はおかしかった。
抱かれながら唇を噛む私にずっとキスしてきて···。
自然と、私の手は唇にふれていた。
自身の歯で傷つけた出血が出た瘡蓋はもう、治りかけていた。
────ピンポーン···
ここのチャイムを鳴らすのはもう何度目だろう。
このチャイムを鳴らす回数は、私が晃貴に抱かれた回数。晃貴のたまり場からここに来るのを含めたら···。
「早いな」
呼び出したのは晃貴なのに···。
「学校から直接きたから」
そう言って、いつも通りに玄関のなかに入った。
靴を脱いでる間、晃貴はどうしてか私の方を見ていた。なんだろう?と心の中で思う。いつもなら玄関の扉をあけたあと、すぐに自分の部屋に行くのに。
「真希」
なに?
名前を呼ばれて晃貴を見ると、晃貴の腕が私の方へと伸びてきていた。
えっ、
気づいた時には中途半端に靴は脱げて、晃貴の方へと引き寄せられていた。
その拍子に持っていた鞄も落とし、教科書が入っいる鞄の鈍い音が廊下に広がる。
「こ、こう、き?」
引き寄せれ、いつの間にか私は壁に押し付けられていた。背中に痛みはないけれど、結構強い力で。
こんなこと初めてだった。
いつも部屋に行っていたのに。
晃貴の手が、私の顎を掴む。
「や、やだ···」
怖くなり、少しだけ晃貴の胸元を押した。
だけどもピクリとも動かない晃貴。
「やだ、じゃねぇだろ」
「な、に···?」
恐る恐る晃貴の顔を見ると、いつもと変わらない爽やかな顔がうつる。その顔は少しずつ近づいてきて···、小刻みに震えている私の唇を塞いだ。
ずっとずっとキスをしてくる男…。
息がし辛い…。
未だ息を整える私に、晃貴は今度こそ私を連れて部屋の中に入っていく。冷房が効いた部屋、キスのせいで体が熱くなった私にとってはすごく気持ちいいけれど。
「ま、まって···」
私をベットへと連れ込んだ晃貴は、またキスをするのか顔を近づけてきた。
「なに?」
なに、じゃなくて···
「その、しないの···?」
いつもなら、すぐに下着を脱がされているに。
「してぇの?真希ちゃん」
爽やかな笑顔で聞いてくる晃貴。
「ちがうっ」
そういう意味じゃない。
どうしてこんなにもキスしてくるのか聞いてるの。
「痛てぇの、癖になった?」
そんなの、なるわけないっ。
あんなにも痛いのに
癖なんてありえない。
「なってないっ」
「なってねぇなら、いいだろ」
「こう、────」
押し倒され、また塞がれる。
顔の両側に腕を下ろされ、晃貴が上にいるから身動きが取れなくて。
「真希ちゃん」
また深々とキスをされた後、キスをやめた晃貴。
なに?
声を出したはずなのに、声はうまく出なくて。
「今から痛い思いしてするのと、こうやってキスすんの、どっちがいい?」
晃貴が意味の分からない事を言ってくる。
どちらかを選べってこと?
どうしてそんな急に?
「選ばねぇなら、どっちもするけど」
「や、だ···」
「どっち?」
そんなの、行為はしたくないに決まってる。
もうあんな痛い思いしたくない、
じっと私の目を見つめてくる晃貴は、いったい何を考えているのか。
「したい?」
そう言った晃貴の手が、私のスカートへと伸びていく。
「いや…」
咄嗟に晃貴の服を掴んだ。
「どっち?」
「するのは、やだ···」
そういう私に、晃貴は「ちげぇだろ」と少しだけ声が低くなった。
違う?何が?嫌って言ったのに。
「俺は、どっち?って聞いたんだけど」
晃貴の言いたいことは分かった。
私の口から言わせるつもりなんだ。
────キスがいい、と。
「やっぱり真希ちゃん、痛てぇの好き?」
違うっ、
違うっ!
もう、痛いのはやだ···。
「···キス」
「なに?」
「キスがいい······」
悔しい。
こんなのまるで、私が晃貴とキスしたいみたいだ。
すんなりと私の中から指を抜いた晃貴は、「俺とキスしてぇの?」と、意地悪そうに笑った。
確信犯だ。
脅されている私は、晃貴の玩具でしかない。
「最低······」
ポツリと呟いた私の声は、晃貴の唇によって消えた。
しばらくの間晃貴からのキスは止まることを知らなくて、いつの間にかキスに慣らされていた私は、自然と息をすることを覚えてしまった。
最後の方には強く抱きしめられながら、キスの間に晃貴は「真希···」と呼んだ。
「お前、夏休みいつから?」
晃貴の家から出ようとした時、ふと思いついたのかそんな事を言ってきた。
「···一週間後」
「そう」
まさか、夏休みも来いとか言わないよね?
「んじゃ、いつでも呼べんな」
晃貴は私の期待を裏切り、爽やかな笑顔で言う。
「暇だったら何か持ってくれば?」
そういった晃貴は「また連絡するわ」とフラフラと手をふった。何かって何を?
聞こうと思ったけれど、これ以上晃貴と話をしたく無かった。
鞄をぎゅっと握りしめ、玄関の扉を開けた。
キスのせいで火照る体。
下がるまで時間がかかったのは、きっと気温が高いせい。
「────···はよ···」
今日の朝の良は不機嫌だった。眉間にシワをよせて、鋭い瞳で私を見てくる。だけどもその表情が怖いと思わないのは、良と話し合いをしたからか。
「おはよう···」
この前まではどう見てもイライラして、先を歩いていた良は昨日から私を待ってくれる。
私が横に立つと、良が足を進める。
「昨日大丈夫だったのか?」
「え?」
昨日?
「男と会ってたんだろ?帰りとか何も無かったのかよ」
ああ、晃貴のこと···。
あとあと真っ直ぐ家に帰った。けれども何も無かった。良が心配することは何も。
「大丈夫だったよ」
そういう私に、良から返事が帰ってくることはなかった。やっぱり機嫌が悪いのかもしれない。
良の隣に立つと、細いけれど身長が高いことが分かる。きっと晃貴と同じぐらいだろう。晃貴も平均よりも高い。
あの手で抑え込まれ、
あの腕に抱かれ、
あの唇に何度もキスをされ、
外見と中身が全く違う晃貴を思い出す。
私はいつになったら晃貴に解放されるのだろうか。
晃貴は言っていた。私が脅されて抱かれ、その事に気づいた聖の顔が見たいと。
気づけば晃貴との関係は終わる。でも逆に聖が気づかなければ晃貴との関係は永遠に続く。
それまでに何回晃貴と会うことになり、何回抱かれるのだろう。何回あのキスを···。
もし今、良に相談すれば全てが終わるのだろうか。
ううん、それはダメ···。
きっと良は聖に言う。そうすればお姉ちゃんに伝わってしまう。相談なんて出来やしない。
私がこのまま我慢すれば、お姉ちゃんにバレることはないのだから。
「────···おい!真希!!」
その時、良の大きな声が聞こえた。
良の力強い手が、私の二の腕を掴み引き寄せられる。いきなりなに?と、ビックリして良の方を見つめようとすると、
「前見ろ、赤だぞ」
え?
あ···
考え事をしていたせいで、目の前の信号が赤色だったことに今更気づく。その瞬間、目の前で車が通り過ぎていて。
良がいなかったら轢かれていた。
「···ごめん、ありがとう···」
「気ぃつけろよ」
呆れたように良に言われる。
良は私の二の腕をはなした。
信号が赤なことを気づかなかった事に自分自身が驚く。そんなに考え事をしていたのだろうか?
「聞いてんのかよ?」
眉間にシワを寄せて、様子がおかしい私の顔を覗き込んでくる良。そんな良に何でもないと首を振る。
「···行くぞ」
「うん」
歩き出した良の後を追おうとした時、
────··ャ
なに?
いま、何か···。
「おい、真希」
「あ、ううん、ごめん。何でもない」
不機嫌な声に変わった良に焦って、私は青になっている信号を渡った。
誰かに見られてるような視線を感じたんだけど、気の所為だよね···。
学校へつく頃には、もう汗がにじみ出ていた。今から西高へ行く良を思うと、本当に申し訳なくなる。
私が晃貴に狙われているから、護衛をしてくれる良。でも本当はもう捕まっているから晃貴に狙われない。だから良が護衛をすること自体無意味···なのに。
良に言えないままでいる。
こんなの、良に嘘を付いているのと一緒なのに。
あと数日で夏休み。
携帯が鳴るたびに、晃貴からの呼び出しではないかとハラハラしたけれど。夏休みが始まるまで晃貴からの連絡が来ることは無かった。