まき
最後
結局私は、文化祭に行くことができなかった。
その日は私にとっても忘れられない日になり、本当に人生を変えたって言葉がぴったりなぐらいで。
あれから約2週間。
私は晃貴のたまり場へと来ていた。
「俺、やっぱ付き合うって思ってたんだよなあ」
そんなことを言うのは、康二で。
康二に貰った鞄の奥そこに入っていた線香花火を2人でやっているところだった。
「つーか、俺だけじゃなくて、他のやつらも思ってたよ。あからさまに晃貴さん、お前のこと気に入ってたもんなあ」
ぽとりと、康二の線香花火の火が落ちた。
「そうなの?」
「そうだろ。この前の花火の時も、すげぇ俺に対して怒ってたじゃん」
そうえば、嫉妬深いって、晃貴自身が言ってたような?
「知らなかった」
私の線香花火もポタっと落ちて。
康二は三本目になる線香花火に火を付けているところだった。
「徹さんも分かってたみたいだし、ってか徹さん喧嘩強いけど、あんまり争うの好きじゃないっぽかったから、これはこれで良かったんじゃねぇかな」
「怒ってなかったの?」
殴られるかもって言ってなかった?
「怒るっつーより、呆れてた」
思い出し笑いをしている康二は、「にしても、お前すげぇな。お前のこと狙ってくるやつ、もういねぇだろ」と、私にロック式のライターを差し出した。
「うん、聖くんもいるし、晃貴がバックにつくなら、狙ってくるのはただのバカしかいないって。そんな根性あるやついないって話になった」
「まあ、そうだな、泉も消えたしな」
泉…。思い出したくもない男。
あの日、お姉ちゃんに全てを話したあと、お姉ちゃんは聖くんに電話をかけた。「今から倉庫に行くから、みんな集めて」と。
まだお母さんもお父さんも起きてなかったのに、お姉ちゃんはまだ叩かれて茫然としている私を外に連れ出した。
倉庫…というよりは、二階建ての建物で。
西高の近くに建っていた建物にタクシーできた私達。
ど、どこにいくの?と、私の手首を掴んで歩いていくお姉ちゃんに戸惑っていると…
「ゆい!」
と、聖くんらしき声が聞こえて。
その建物から出てくる聖くんと、その後ろから、はあ?って感じに顔を見せた良くん。
「え、なに?どうした?ってかそれ寝巻きじゃ…」
「聖!!今すぐここに穂高って人呼んで!!」
「え?」
穂高?
呼ぶ?
え、晃貴を呼ぶって…
お姉ちゃんの言葉を聞いた瞬間、良くんの顔色が変わった。
「穂高って清光の?ってかまじでどうし────」
「いいから呼んでってば!!!!」
「おい唯、どうしたんだよ?何怒ってんだよ」
「全部聞いたからっ、早く呼んで!!!!」
良くんが言うにも、お姉ちゃんは大きな声で怒鳴ってた。こんなに怒っているお姉ちゃんは初めてで。
「全部って?」
戸惑う聖くん。
それもそうだ、聖くんは何も知らない。
事情を知っている良くんだけが…
「わかった、呼ぶわ。それでいいんだな?真希」と、何かを接したのか私の顔を見つめてきて、
私は頷いた。
それから30分もしないうちに、「こんな時間になんだよ」と、昴さんと、見たこともない大きな体の人が現れた。名前を聞く限り、その大きな男は薫というらしく。
それから、良くんによって呼び出された晃貴。
────ポタリと、線香花火が落ちた。
私は2週間前の事を思い出しながら、お姉ちゃんに叩かれた左頬に手を当てた。
────真希、私はいつでも真希の味方だよ
────真希が誰を好きでも、私は変わらない
────聖が反対しても、真希の好きにしていいんだよ
────っていうか、なんで反対するの?
────聖と仲が悪いから?そんなの真希には関係ないんだから
────貴方が穂高くん?ちょっと1発、妹に変わって殴らせて
────はあ?聖側?なにそれ?
────ちょっと良くん、何笑ってるの?
────なに?聖、まさか私の妹に我慢しろって言おうとしてるの?
────真希に酷いことした?だからそれはさっき殴ったからチャラでしょ
────真希を泣かせたら、例え聖でも許さないから
────それからねぇ、真希、私があんたのこと嫌うわけないでしょ!!馬鹿!!
────あんた勘違いしてるからっ、男の子が欲しいって言ってたのはお母さんの兄!叔父さんなの!!
────キョウダイじゃないのは当たり前でしょ!私たちはシマイなんだから!!
────買い物行ったってねぇ、お母さんってば「真希の好きなのは」って、あんたのことばっかりなんだからっ
────勉強できない?何それ、そんなことで嫌うはずないでしょうが!!!!
────お父さんも真希は?真希は?ってうるさいぐらい真希のこと大好きなの!!
────危ない人?誰が?真希が選んだ人なのに危ないもくそもないの!
────穂高くん、真希を泣かせたら許さないから
────はい、この話は終わりね
「まーきちゃん、何してんだよ、待ってろって言っただろ?」
その時、背後から聞きなれた声が近づいてきて。
「俺のもうねえじゃん」
首元に腕を回され、のしかかってくるシトラスの香り。
最後の1本だった線香花火は終わりを告げて…。
「次は誘えって言っただろ」
「あ、すみません晃貴さんっ」
「別にいいけどよ…、そろそろ行こうぜ真希」
金のメッシュが無くなり、黒髪1色になった晃貴。爽やかな晃貴にとって、黒髪1色がとても似合っていて。
「どこ行くの?」
キョトンと聞く私。
「俺んち」
「晃貴さん、徹さんが晃貴さんが来たら顔出せって言ってましたよ」
「適当に言っててくれよ」
「それ何回目っすか?」
「晃貴、私まだ片付けあるから、行ってきていいよ?」
私がそう言うと、晃貴が少しだけ不機嫌な目に変わった。
え?なに?
言っちゃダメだった?
「すぐ戻るから、あんまウロつくなよ」
「うん」
晃貴は私から腕を離すと、だるそうな感じで徹がいるらしい部屋の方へと向かい。
「やっぱり晃貴さんって、ヤキモチ焼きなのな」
ヤキモチ?
いま康二と話してたから?
嫉妬深い晃貴……。
片付けをしていると、晃貴は思いのほかすぐに戻ってきた。もうほとんど終わっていた片付けを康二や、他の人に任せて、晃貴に連れられマンションへと向かう。
「あ、そうだ晃貴」
「ん?」
「お姉ちゃんがね、家においでって。お母さんとお姉ちゃんが盛りがってたよ」
「まじかよ。俺、ねーちゃん苦手」
「そうなの?」
「怖い。まだ頬ヒリヒリする」
怖い?晃貴が?
上の人間の晃貴が、お姉ちゃんを苦手だなんて…。
クスクスと笑う私に、晃貴は不機嫌そうに「つーかお前、康二とも仲いいのかよ」と言ってきて。
康二?とも?
ああ、良くんと仲良いって言われたことあったっけ?
「知らないの?私結構モテるんだよ。この前も文化祭一緒に回ろうって誘われたんだから」
文化祭の次の日、学校へ行ってきちんと謝ったけど。
「はあ?誰にだよ」
「学校の人」
「だから誰だって聞いてんだよ。名前言えよ」
「知らない」
「はあ?」
「晃貴にしか興味ないもん」
「……真希ちゃーん、俺で遊んで楽しい?」
クスクスと笑う私に、晃貴は「この野郎」と笑ってくる
大好きな晃貴…
これからもずっと一緒にいれますように。
(おわり)