愛しの君がもうすぐここにやってくる。
その桜の木が風で揺れ花びらを少し散らし、私の頭に一枚ひらり。
私は気付かずそのまま息を切らせ屋台へと向かう。

「おじさん、たい焼きひとつちょうだい?」
声をかけて屋台をのぞくとおじさんは片付けを始めているところだった。

「あれ、もう終わりなんですか?」
おじさんって言ってるけど、本当の年齢は知らない。
でもヒゲを蓄えているせいか、見ようによってはおじいさんにも見えたりする。
見た目は上品な初老の紳士という感じだが、屋台でたい焼き売りをしているせいか、
とても親しみがある。

「うーん、ホラ、雲行きが怪しいやろ?」
おじさんは片付ける手を止めて空を指さしながら答える。

うん、確かに、それは私も思っていた。

「…雨…ですよね?」

「そやで、おまけに雷がきそうやからねえ」
おじさんは手を止めることなく片付けている。

「え?雷?」
そう言われて再び空を見上げてみるけれど私にはよくわからない。
さっきよりも雲が分厚いのはわかるけれど。
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