愛しの君がもうすぐここにやってくる。
・・・・・・・・・・・・・・・・

もうすっかり桜は散ってしまった。

これから季節は梅雨に入り、そして夏に向かって動き出す。
日差しがきつくなってきているのか、影もこころなしか濃く見える。

紅枝垂れ桜の木はそのまま残っていて、まるで私を見守ってくれているようにも感じる。

「そうだ」
私はあの時の桜の花びらを掌に乗せる。
あれから時間がだいぶたつのに、その桜の花びらはあの時のまま、変わらずしおれることもない。
ずっと私が持っていたけれど、こういう不思議なものって時親様に持っていてもらうほうがいいのかもしれない。

そんなことをぼんやりと考え、そして「なんか平和だなあ」ひとりごとをつぶやき大きく伸びをする。
まあ、正確には私がここにいること自体、平和ではないのだけれど。

今の私の中には帰りたいという気持ちと時親様と離れたくない、そんな気持ちがいったりきたりしている。

ここに来たとき、はじめの頃は毎日のように通学リュックを抱きしめて、中のものを取り出して、帰りたいと思っていたのに、気付けばそういうことも少なくなってきている。

私は久しぶりにリュックを手に取り、ポケットやファスナーを触り、毎日持って学校に通っていた頃の自分の感覚を取り戻そうとする。

< 100 / 212 >

この作品をシェア

pagetop