愛しの君がもうすぐここにやってくる。
そしてリュックの中に手を入れて触れたものを出してみる。
「英語の教材だ・・・」
それは英語の副教材で「シンデレラ」の物語が英語で書かれた絵本だった。
なんか必死で訳したり、英文を覚えたりしていたなあ。
ここに来てから時間は経っていないのにずっと前のようにも感じる。
考えるとまた落ち込みそうなので、暗い気分を晴らそうと私は本を手に取り、御簾の外側に出て座る。
すると突然、私の前を黒い小さな影が横切って私の後ろに隠れるようにおさまった。
え?なに?
私がその影の方をみると雀躍と目があった。
雀躍は「しーっ!」と口に手を当てて、黙っているようにという仕草を見せた。
それからほどなく
「雀躍がここに来ませんでしたか?」
そう言いながら庭の向こうから時親様がやってきた。
「あ・・・えっと、」
正直に言うべきか黙っておくべきか迷っていると、その私の表情で時親様は気付いたようで
「雀躍、出てきなさい、それから紫乃も御簾を上げるのはいいですが、外側に出るまでは・・・」
窘めるようにに言った。
「すみません・・・、気分が落ち込みそうだったから・・・」
私がそう答えると同時に雀躍は観念したように私の後ろからもそもそと出てきた。
「ここには来ないようにと言っているでしょう」
「だって・・・」
雀躍の声に被せて時親様のため息。
「わかったよ、帰るよ。
でもまた来るから」
そう言うと雀躍は走って行ったかと思うと同時にすうっと消えた。