愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「・・・そうですか。
わかりました。
でもこれは紫乃が受け取ったものです、ですから預かるというかたちで私が持っていましょう。
きっとこの花びらはいつか紫乃の役に立つかと」
彼は懐に花びらをそっとしまった。
その仕草をぼんやりと見つめる。
そしてそんなひとつひとつの何気ない仕草にさえ、また惹かれていく自分がいる。
ぶんぶんと頭をふって、さっき眺めていた英語の副教材を片付けようと手に取る。
「そうそう時親様、これ、私が前にいた場所で使っていたものなんですよ。
今ここでやっている古今和歌集とはまた全然違う本で・・・」
そしてさっき見ていたシンデレラの本を時親様の前に差し出す。
「ほう・・・」
彼はそう言ってその本を覗き込むように見た。
彼の動きに合わせて微かに香りが私の近くに来る。
時親様の薫衣香、なんだろう。
桔梗さんから教えてもらっている薫物のことを思い出しながら考える。
白檀かな、とても上品な香りがする。