愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「・・・できません・・・」
「・・・ですから、大丈夫で・・・」
どこからともなく話し声が聞える。
「声が聞えますね・・・、とりあえず、行ってみましょうか」
それは私の空耳ではなくて時親様にも聞えているようだった。
若い女性の声とおばあさんの声。
でも行こうにも私のこの格好じゃなかなか歩きづらい。
「坪装束だったらまだ楽だったのに。
歩けますか?」
時親様は私の袿姿を見て言った。
「大丈夫ですよ」
私はそう言いながら懐から上靴を出す。
「?」
「ああ、靴ですよ、えっと、時親様が履いている・・・それと同じようなものです」
私は時親様の足元を見ながら言った。
「ああ、浅沓ですか」
それから足しは少しでも楽に歩けるように袴をたくしあげた。