愛しの君がもうすぐここにやってくる。
時親様はあっけにとられたような表情をしたかと思うと、声をあげて笑った。
「え?」
思わずその笑い声に時親様の方を見る。
私と目が合って、彼は慌てて口元に手を当ててコホンと咳払いをして視線を逸らせた。
いや、あの、なんだ、この異様なほどの緊張感。
そういえば手習いの話をしていたときも笑ってたっけ。
そんなことを思い出した。
あのころより確実に彼は私の中で大きな存在になっている。
「えっと、と、とりあえず行きましょう」
私は裾を引っ張りながら歩いてみるけれど、どうにもこけてしまいそうになる。
やっぱり慣れない。
「わっ」
倒れそうになる私にまた時親様が手を差し伸べてくれる。
しばらく差し出してくれた手をじっと見つめる。
「手をどうぞ。
大事な姫君ですからね、ケガされては大変です」
大事な姫君・・・じゃないんだけどな。
嘘ついているわけじゃない。でも。
少し落ち込みながら言われたとおり私は再びそっと手を重ねる。