愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「このカンはよう当たるんやで?」
疑わしそうに空を見る私におじさんは自慢そうに笑う。

そして続けた。
「それでこんな日の春雷は…」
そう言っておじさんの顔から笑顔が消えて怖い表情になる。
つられて私もゴクリとつばを飲み込み、おじさんの次の言葉を真剣な顔をして待つ。

「その雷さんは気まぐれで…、人間をよその世界に連れて行ってしまうことがあるんや…」

よその世界?
想像もしてなかった彼の言葉にぶっと吹き出してしまう。
「笑い事なんかやない、本当、本当」
私は笑いが止まらない。
「雷さんにさらわれて、二度とこの世界に戻ってこれなくなってしまってもいいの?」
怖い顔をして言ったかと思うと、おじさんも目尻にシワを寄せて笑う。

「まあ、子どもにとって時間も遅くて、
そのうえ天気が悪くなりそうになっても外で遊んでたらアカンっていうことやな。
早うお帰り」

「もう、そんな言い方しなくても雨降りそうだし帰りますよー」
私はあははと笑う。
おじさんはやさしい笑顔で応えて、
私に背を向けてごそごそと動き再び私の方に向く。

「でも雷雨はほんまやし、今日はこれで店じまいにするわ。
まだ温かいから持ってってかまへんよ、最後のひとつ」

そして私にたい焼きがひとつ入った袋を渡す。
「ありがとうございます、えっと財布、財布・・・」

私は通学に使っているリュックに手を入れて手探りで財布を探す。
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