愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「紫乃、どうされましたか?」
ふと聞えた、時親様の声。
なんでこういうときもこのひとは真顔でいられるんだろう。
私はこんなにも簡単に情緒不安定になってしまうのに。
まあ、答えは簡単、彼は私のことなんて。
「と、とにかく好きなんだったら王子様のところに行ってください!」
私の言葉にシンデレラはゆっくりと顔をあげた。
「どうしてそこまで・・・」
どうしてだろう・・・。
私自身が思い通りにできないから、せめて彼女には、と思っているからなのだろうか。
「・・・あなたには、自分の気持ちに従って思いを大事にしてほしいんです。
せっかく王子様と同じ時間を過ごしているのだから」
言っていてなんか泣きそう。
シンデレラはしばらく私を見つめ、そして言った。
「私の、気持ち・・・ですね」
そう言うと、ドレスを翻して王子様の元へゆっくりと歩み寄って行った。
私はぼんやりと彼女の後ろ姿を見つめる。
・・・ああ、王子様もシンデレラを見つけたようだ。
これで物語は正しい方向にすすんでいくだろう。
私はふたりをぼんやりと見つめながらこれからハッピーエンドに向かっていく彼女たちを羨ましく思った。
「紫乃、急に元気がなくなったようですが・・・大丈夫ですか?」
私の顔を覗き込むようにして時親様が声をかける。
「うわ!」
あまりの近さに大きな声が出てしまう。
「驚かしてすみません、何度呼んでも返事をなされず・・・。
大丈夫ですか?」
嫌だなあ、ほんとに嫌だなあ。
惹かれたくないのに。
ひとには偉そうに言うくせに、どうして自分の気持ちのこととなると自分の思うようにならないのだろう。