愛しの君がもうすぐここにやってくる。




明日は満月。

今でもじゅうぶんに丸くて大きな月が見える。
満月の夜に演奏か。
どこかの市民会館とかでピアノの発表会とかそういうのとは全く違う感じだろうな。
当たり前か。
やっぱり想像できない。

手元にはさっき桔梗さんが用意してくれた重湯の器。
温かくて安心できて、そのまま床に就いたけれど、やっぱり眠れなくて。
なんとなく起きて、几帳からごそごそと出てきて御簾をあげる。
それから脇息にもたれかかるように肘をかけてぼんやりと外を眺める。

ここから見えるあの紅枝垂れ桜の木は緑の葉をつけてゆらゆらと揺れている。
どれくらい時間がたったのか、今、何時だろう。
もう日付も変わってしまっているだろうな。

ここに来た頃は元の場所に帰ることばかり考えていたけれど。
今はそう考えることも少なくなってきている。
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