愛しの君がもうすぐここにやってくる。
あれ・・・?
静かな風の中に人の気配、がした。
微かに白檀の甘い香り。
これは・・・。
「時親様・・・?」
「ああ、紫乃・・・、起こしてしまいましたか」
この声はやっぱり時親様。
外が暗すぎて人の気配しかわからないけれど、声を聞いて彼だと確信する。
「それとも、眠れないのですか?」
少しずつ時親様の姿がはっきりと見えてくる。
「あ・・・、はい、なんとなく・・・。
どんな宴なのかなとか、たくさんのひとがみえるのかなとか、明日のことを考えてたら・・・」
苦笑しながら答える。
そのまままっすぐ私のところまで来た時親様は
「よろしいですか」、
そう言って御簾を少し上げた。
「明日が気になりますか?」
「はい、まあ・・・、桔梗さんが遊宴って言ってたけど、なんか想像できないから余計に・・・」
「桔梗から紫乃の琵琶のことは聞いています。
私はまだきちんとは聞いたことはありませんが、きっとすばらしい演奏をしてくれると思っています」
そっか、そうなんだ。
私のこと、信用してくれているんだ。
時親様とこうして話をしていたら少しずつ自分の中の嫌な緊張は消えて、心地良い緊張だけが残るような感じ。
頑張って演奏しよう、時親様のためにも。