愛しの君がもうすぐここにやってくる。
こんな誘惑に勝てる人間なんていやしない。

どこか座れるようなところがあったかな、近くの公園なら座るところあるかな。
私は道を戻りながらきょろきょろして座るところを探す。

あ、そうだ。

そこまで行かなくても見上げると大きな桜の木。
「ここでいっか」私は桜の木の下の隙間に入るように隠れる。

そして桜の木を見上げる。
改めて見ると全体が見えるせいか、だいぶ大きいなあ。
1000年くらいは経っているのだろうか。
そんなことを考えながら桜の木の近くにあったちょうどいい高さの石の上に座り、
ガサガサと袋からたい焼きを取り出す。

「いただきまー…」

ん?

なにか額に冷たいものが落ちて空を見上げると真っ黒に近い雲。

え?
満開の桜の花の隙からまた雫が額にかかる。

「冷たっ」
ちょ、これって雨?

もしかしてこれっておじさんの言っていたように雷になるのかな。
こんなことになるのなら言われたとおり、素直に帰ってればよかった。

いや、でも今からじゃ走って帰っても間に合わない。
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