愛しの君がもうすぐここにやってくる。
ーーー翌日、夕刻。
陽も沈みはじめ、東の空にぼんやりと白い月が見えてきた。
空がもう少し暗くなり、月も金色に輝く頃に宴は始まる。
「紫乃様、そろそろ女房装束をお召しになりましょうか」
「女房装束・・・?」
「十二単、と言うとおわかりになるでしょうか・・・」
そう言いながら彼女は着物を広げて準備を始め私に着付けをはじめていく。
・・・のはいいんだけど、これは思っていた以上に動きにくいし重たい。
12だから12枚着物を重ねるっていうんじゃないけれど、とにかく重たい。
「今の季節、紫乃様の襲色目は花橘にいたしましょう。
元気で明るい紫乃様にお似合いかと」
せっかく桔梗さんが言ってくれているんだけど、意味がなんだかよくわからない。
でも言うように着せてくれている着物を見ると、今の時期に合わせて緑が濃くなっていく葉の色と、橘が濃い黄色になっていく、そんな色のグラデーションがとてもきれいなものだった。