愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「そんな言い方はないんとちゃうのっ」
私は雀躍の首根っこを捕まえようと手を伸ばしたけれど、さっと交わされてしまった。
そしてその拍子に足下がもたついてバランスを崩してしまう。
「あ、紫乃様・・・」
桔梗さんが私の名前を呼ぶと同時に私は前のめりになってこけてしまった。
「痛・・・」
「紫乃様、大丈夫ですか?」
桔梗さんが手を差し伸べてくれ、私はその手に掴まり立ち上がる。
「雀躍、どこ?出てきたら?」
「嫌だね」
声はどこからか聞こえたけれど、どこにいるかはもうわからない。
ほんとにもう・・・。
そして全く違う方向から声が聞えた。
「準備の方はよろしいですか?」
うわ、この声・・・。
「時親様、こちらの準備はほぼできあがっています」
桔梗さんが頭をさげながら言うと、時親様は軽く会釈して応えた。
う、ただでさえ演奏があるっていうので緊張しているのに、近くに来られて心臓の鼓動が大きくなる。
桔梗さんが御簾をあげて、隠れていた時親様の姿が現れると彼女は言った。
「いかがでしょうか?
紫乃様の十二単姿は・・・。
花橘でより彼女らしさが出ているかと思ったのですが」
ちょ、桔梗さん、そんなこと聞かないで欲しい。