愛しの君がもうすぐここにやってくる。

わ、手が震えてきた・・・、おしつぶされそうになる。
いつまでも演奏が始まらないことにみんな不審に思い始めたのか、さっきまでの穏やかな雰囲気から、こちらを指さして何かを言い始めているようだ。

やっぱり、私、こういうの、無理かも。
はじめの撥の位置はどうだっけ・・・。
どうしよう、弦を押さえる指に力が入らない。
私は唇を噛みしめて両手の震えを止めようとぎゅっと握る。

「・・・?」
「・・・紫乃様・・・?」
やっと聞えた桔梗さんの声に我に返り、彼女の顔を見る。
たぶん私はかなり不安な表情をしていたんだと思う、桔梗さんも少し困ったような表情。

そのとき聞えた竜笛の音。
時親様だ。

聞えた柔らかでやさしい音色に不思議と私の緊張は少しずつ解けはじめる。
「紫乃の演奏ならきっと大丈夫です。
私の音についてきてください」
ここにいないはずなのに目を閉じると時親様の声が聞える。

竜笛に導かれるようにゆっくりと私は撥を動かす。
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