愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「都中で貴女のことは噂になっておりますよ。
安倍時親様が美しい姫君と暮らし始め、たいそうその姫君を寵愛していると。
あの冷静沈着は時親様がそこまでになるのはその姫君は妖か女狐か・・・」
そう言ってそのひとは笑う。
なにそれ、失礼な、相変わらず私を妖怪扱いですか。
このひとが私が妖怪だって噂を流した張本人じゃないの?
でも時親様が私を寵愛しているって・・・。
そんなことないんだけどな。
なんにしても噂というものはどの時代も怖いもんだ。
「あの、言っておきますけど、私、人間ですから」
むすっとして答える。
「ああ、これはこれは失礼いたしました、言葉が過ぎました。
でも私の中でそれほどの姫君なら一度、お話できたらと思ってこうして失礼と思いながらも参りました」
本当にこのひと、いったい誰なんだろう。
時親様の仕事の知り合いのひとならあまり悪いことも言えないし。
「実は以前、紅枝垂れ桜の木を愛でていらっしゃった貴女を遠くからですが、お見受けしたことがございまして」
「え・・・?」
それってずっと前に、桔梗さんと一緒にこっそりと庭に降りたときのことを言っているのだろうか。