愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「もう客人は皆帰りました。
今夜は疲れたでしょう。
それにしてもすばらしい演奏でしたね」
そう言いながら時親様はいつものように少し御簾を上げてくれる。
そして見えた彼の姿に私の心臓は自分でもびっくりするくらいに騒ぎ出す。
いつも思うのだけれど、どうしてこのひとの容姿やひとつひとつの所作が絵になるくらいに美しいんだろう。
「でも私、緊張してしまって・・・」
「そんなことないですよ。
皆、紫乃の演奏をたいそう褒めておられました」
「・・・ありがとうございます」
そう言ってもらってちょっとほっとする。
「それから・・・、終わってから言うのも気が引けるのですが。
本当は・・・、紫乃を表に出すというようなことはしたくありませんでした。
しかしこのままだとあまりにも世間の噂が・・・。
でも今夜で紫乃が鬼でも妖でもない、姫君であると世間の誤った認識を解きたかったのです。
私の勝手な思いで申し訳なく思っています」
少し悔しそうに言う、その言葉は私が本当のお姫様だったらどんなに嬉しかっただろう。
でも違う、ごめんなさい。
私は時親様が思うようなどこかのお姫様なんかじゃなくて。
喉まで出かかった言葉を飲み込んでしまう。