愛しの君がもうすぐここにやってくる。

本当のこと、言ってしまうと、時親様が離れていってしまいそうで、言えない。
袖を掴みながら手が震え、涙が落ちる。
ここの世界にきてから本当に私はよく泣いている。
こんなに泣き虫だったかと思うくらいに。
でもちゃんと言っておかないと・・・。

私はゆっくりと大きく息を吸って、気持ちを落ち着けるようにして、そして言った。
「私、時親様が思うようなお姫様とかそんなんじゃなくて・・・。
でも時親様と一緒に・・・」
そこまで言って我に返る。
お姫様でないことはともかく一緒にいたいなんて、言ってしまえば彼を困らせてしまうだけだ。

こんなにも満月がきれいなのに、切なくて悲しくて。
袖を掴んで引き留めたのに、自分の気持ちを上手に伝えることができない。
静かに時間だけが流れていく。

そして再び時親様は静かに私の側に座る。
「紫乃、・・・聞いていただけますか?」

「はい?」

そして彼は少し考えるような素振りを見せて、遠くを見つめながらゆっくりと話し始めた。

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