愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「・・・私は、今まで淡々と生きてきました。
まだまだ人間として未熟なのか、それともこのような仕事のせいか、人間の感情というものに付き合うことがとても苦痛に感じることも多くて。
人間はどちらかというと幸せを感じているときは自分の幸せのことしか考えていません。
しかしそれが一変、憎悪を感じるようになると自分のことだけでは済ませることができなくなります。
だれかに、なにかに責任をおしつけることで、その重みから逃げようとする、言い訳をしようとします。
そんな感情にぶつかるたび、私の中から人間らしい感情が少しずつ手の中からこぼれ落ちるような感覚に陥っていました。
ひとの感情に関わることはこういうことを生業にしているくせに正直言うと、疲れてしまって。
そんなとき紫乃が菜の君のことや遠く彼の国の姫君とのこと、そんなにひとのために一生懸命になれる貴女に・・・」
そう言って彼はこちらを向いてじっと私のことを見た。
彼が無表情であったのは感情がこぼれ落ちていったから、そういう理由があったからなのだろうか。
「紫乃、私は・・・貴女がどこのだれでもよかったと思っています。
ただ笑顔で過ごしてくれるのであれば。
でも貴女は・・・」
時親様・・・?