愛しの君がもうすぐここにやってくる。

・・・・・・

宴が終わっても相変わらず私は琵琶の魅力に惹かれ、毎日のように音を鳴らし過ごしている。
それに不思議と琵琶を弾いていると気持ちが落ち着く。

あの夜から・・・、あの夜、時親様が言いかけた言葉が気になって仕方がない。
もしかしたら、なんて都合のいいことを考えてしまう。
でも時親様とはあれきりで会っていない。

今日もグレーの空から雨粒が落ちてくる。
こうしてまだまだ雨の日は続いているけれど、それでも桜の木は濃い緑の葉をつけて今は梅雨と夏の狭間なんだなと。
たまに晴れた日はだんだんと確実に夏へと向かう日差し。
さすがに晴れると袿姿も暑くなってきたと思うことが多くなってきた。

あれから何日経ったのだろう。
桔梗さんは時親様は仕事が忙しいようで、帰ってくることもほとんどないって言っていたけれど、なんとなく私のことを避けているようにも思える。
どうして。

なんでもいいから話がしたい、そう思って桔梗さんにはいつになってもいいから時親様の時間があるとき、私に声をかけてほしいって頼んでおいたけれど。
全然、声をかけてくれることもなく。

毎日続く雨に気持ちも余計に滅入ってしまう。
私はため息をついて雨が落ちる空を見上げて琵琶を引く手を止める。

< 149 / 212 >

この作品をシェア

pagetop