愛しの君がもうすぐここにやってくる。
この夕陽。
本当にあのときとよく似ている。
河原町の。
にぎやかな街の雑踏。
車の走る音、すれ違うひとたちの話し声。
だからちょっと原田くんのことも思い出したのかな。
あのときは本人を前にして文句言ってやるなんて意気込んでいたけれど、今は全く逆になってる。
時親様のちょっとした言動が気になったり、自分から何かをするなんてできない。
私はぼんやりと沈んでいく夕陽を眺める。
このまま陽が落ちてしまうと気温も下がって過ごしやすくなる。
少し湿った空気、そして草の匂い。
同じ夕陽の中なのにあのときは都会の中にいて、今は自然の中にいる。
私はため息をひとつついて、御簾をおろして几帳の奥へと入る。
そのとき「紫乃様・・・」と私を呼ぶ声。
振り向くと桔梗さんが立っていた。
「さきほど時親様がお戻りになりました。
どうされますか?」
帰ってきた?
「あのっ、話したいから、話したいことがあるからって伝えてください」
まだ彼と会ってもいないのにドキドキと鼓動が高鳴る。