愛しの君がもうすぐここにやってくる。
しばらくして人の気配。
足音と白檀の香りが少しずつ近づいてくる。
時親様だ。
足音はぴたり、と私の前で止まる。
そしてお互いに言葉を交わすこともなく、ふたりの間に少しの時間が流れる。
なんだかいつもよりも緊張する。
「夕陽・・・」
さっきよりもまた少し沈んだかな、そう思ってつぶやく。
「ああ、きれいな夕陽ですね。
今日は久しぶりに少しずつ天気もよくなってきたから・・・」
「こんなにきれいな夕陽を見たのは初めてかも・・・」
私の言葉に時親様も夕陽の方に視線を向ける。
御簾越しに見える整った横顔。
はっきり確認できないけれど彼の美しさはわかる。
「そうですね。
太陽の光は普段、空気中の雨の蒸気や地上の埃の中を通って、私たちのところまで届くのですが、今の時期は太陽の位置のこともあって、光は空気の中を長く通過していくんです」
彼の言葉が、声が、ゆっくりと夕焼けの中に溶け込んでいく。
私は静かにその感覚を愛おしく思う。