愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「その間で青の光は散乱して赤い光だけが残り、ここに届きます。
だからこんなにも鮮やかな夕焼けを見ることができるのだと思いますよ」
そう言って彼はそっと腰を下ろす。
彼が動く度に白檀の香りも動く。
「時親様って気象予報士みたいですね」
くすっと笑い、彼に答える。
「キショウヨホウシ?」
私の言葉が理解できない様子で彼は同じ言葉で聞き返し、その彼の言い方が少しおかしくてやっぱりまた笑ってしまう。
・・・今日は・・・、御簾はあげてくれないのかな・・・。
「ずっと前に、っていうか。
前に私がいた場所でも今ここで見ている夕陽と同じような夕陽を見ていたことがあるんです」
彼の横顔を見つめながら、さっき思い出していたことを話す。
「周りも紅くなって揺れていてきっと空の色は過去も現在(いま)も未来もずーっと同じなんだって」
時親様は静かに私の話を聞いている。
「ずっと昔のひとも同じ時間に、空を見上げて、思いを馳せてていたひとがいて、そのひとは何を思っていたんだろう。
何を感じていたのかなって。
で、気付いたら私がその昔のひとになってる、みたいな、なんか不思議ですね」
私、何を話しているんだろう、一体なにが言いたいんだろう。