愛しの君がもうすぐここにやってくる。

「紫乃は・・・、やっぱり不思議なひとですね」
ぽつりと時親様が言った。

「・・・不思議って・・・?」

「以前にもお話したかと思うのですが。
紫乃がいつもひとのために懸命になれることが。
私は・・・人間の感情に触れることに疲れてしまうようになってからは、なんでも呪詛などで解決しようとしていました。
でも紫乃と一緒に過ごすようになって、ひとの心は呪詛よりも強い力をもっていると理解するようになりました。
人間の感情からは逃げることができないのだと。
それはまた自分の感情からも逃げることができないのだと」
時親様は私の知らないところでたくさんの辛いことを受け入れてきたんだ。
しかもそれをひとりで。
きっと私の思いもよらないこともたくさんのこと・・・。

「私・・・時親様と比べたらそんなたいした経験ないですが。
それでも悲しいからとか辛いからとか、そんな感情に襲われてもそこから逃げないでちゃんと向き合わないといけないって、私もわかっているんですけどね。
今はそういうこともなかなかできないです」
そう、もとの世界に帰らなくてはならないこと。
わかっているけれど。

「以前はどんなことがあったって、大げさかもしれないけれど、運命を受け入れて
そしてまた前を向いて進んでいかなければって思っていた、そんな時期もあったんですけどね」
私は河原町であった出来事を思い出しながら苦笑する。

< 157 / 212 >

この作品をシェア

pagetop