愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「あの、時親様・・・、私が元の場所に帰るという話は・・・どうなったんでしょうか」
手が震え、消え入るような声になっているのが自分でもわかる。
「・・・ああ、そうですね・・・」
そうして彼はゆっくりと私の方を向いて続けた。
「野分の時期が来たら。
そしたらきっと紫乃がここに来たときの空の条件と似たようなことが起こるはずです。
そのときが帰るときです」
そう言いながら時親様は手をかざし暗くなりかけた空を見つめる。
「野分・・・、それっていつかわからないんですか?」
「いえ、私は風雲の動きもわかりますし天文観測もできますから、いつ帰れるかおおよその時期もわかります」
「そう・・・」
静かに話す時親様は私がもとにいた場所に帰ることについてどう思っているのだろうか。
「それが急だったら・・・嫌、です」
私はそっと小さな声で言う。
そういうだけで精一杯。
「・・・急に、時親様と別れてしまうことになるのは・・・」
そこまで言いかけて思わず口をつぐむ。
そしてそっと彼を見る。
彼は聞えていたのか聞えなかったのか、こちらに目を向けることなく、じっと遠くを見ているだけだった。
こういうとき彼は一体何を考えているのだろう。
前にも考え事のひとつくらいあるって言っていたけど。
何を考えているのだろう。