愛しの君がもうすぐここにやってくる。

返事はない。
でも煙が消えていくと同時に桔梗さんの代わりに狐の姿がそこにあった。

え?え?どういうこと?

「あ、桔梗さん、どこ?」
「私が桔梗です。
時親様を呼んでくるまでなんとかやり過ごせるように私の形代を置いていきます」
そう言って狐になった桔梗さんは一瞬にしてその場から走り去った。

桔梗さんって・・・狐・・・?
そして私の横にはもうひとり、桔梗さん。

でもよく見たら横にいる桔梗さんはさっきまでと同じように動いているけれど、生気がない。
なんだかもうここまで来ると、なにが起こってもそんなに驚くこともなくなってしまった。

それより桔梗さんがいなくなった今、そうしたら私はどうしよう。
私の性格からしてここでじっとしているってタイプでもない。
とにかくこの縛られた縄をほどかないと。
こんなところで野垂れ死んでたまるか。

私は必死になって身体を左右上下に動かして少しでも結び目を緩めようと試みる。
「それにしても腹立つ、あの知徳法師とかいう奴!」
結び目が緩まないことも重なり怒りが声になって出てしまう。

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