愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「紫乃、雀躍から離れなさい!」
時親様の方を見ると彼は数珠を空にかざし、なにか呪文を唱え始めた。
え?
もし、それが雀躍を止めるために向かうものなら・・・。
早く、早く!私に気付いて!
「雀躍!お願いやから!目を覚まして・・・、お願い、帰ってきて・・・」
どんなに焦って大きな声で訴えても私の声は雀躍に届かず、もどかしくて涙がこぼれる。
その涙が雀躍の首筋に落ちる、と同時に雀躍の力がゆっくりと抜けていく。
「え・・・?雀躍・・・?」
やがて雀躍はその小さな身体を私に預けるようにして静かに息をたてて眠りに落ちた。
さっきまでの状態と全く違う。
さっきまで荒かった息もゆっくりになり始める。
落ち着いてくれた?大丈夫なのかな・・・、よかったのかな・・・。
私は時親様を見た。
するとその様子を見ていた時親様も雀躍の様子に気付いてくれたのか手を下ろす。
私は時親様の側に戻ろうと意識のない雀躍をゆっくりと抱えるようにして立ち上がり、歩み寄る。
一瞬、智徳法師を見ると彼は弓を射るような仕草を見せたかと思うと、何もないところから弓が現れた。
え?なに?
そしてその弓から放たれた光はやがて矢となり、私に向かってきた。
「紫乃っ!伏せなさい!」
時親様がそう言うと同時に彼もその矢に向けてなにか光るものを投げる。
それでも矢のスピードは速く、怖くて思わず目を閉じた瞬間、パリンと小さなガラスが割れるような音が聞えた。
少ししてそっと目を開けると足下に飛んできていた矢が落ちていた。