愛しの君がもうすぐここにやってくる。

「ああ、まだゆっくりしていた方がいいですから。
顔色、悪いですよ？」
さっきの女の人が私の背に手を当てる。

「！！！」

この女の人…！
彼女の姿を見て思わず言葉を失う。
人間だけどなんか変。
な、なんて言ったらいいの。
今の時代と服が…違う…。

着物を着ているけれどお正月に街中で見かけるような、そんなんじゃない。
袖も裾を引きずるくらいの着物。
そのしんとした中、彼女が少し動く度に衣擦れの音が聞こえる。
着物だけじゃない、長い黒髪も束ねることもせず、それは長く。

私はまだくらくらとする頭を抱えパニックになりそうながらもうつむき、目をぎゅっと閉じる。
冷静になるようにと自分に言い聞かせる。
そして再び目を開けても光景は変わらない。

ありえないでしょ。
日本史の教科書。
そう、

―――平安時代だ―――