愛しの君がもうすぐここにやってくる。
はじめは彼女に対してなんの感情も抱くことはなかった。
しかし一緒に過ごす彼女はとても表情が豊かで、大きな瞳で私を見つめる。
彼女の瞳に私が映ることで、私が彼女の中に存在する、そう理解することで少しずつ心が軽やかになるような、そんな不思議な感覚に陥っていった。
淡々と単調な毎日がいつしか帰ることが楽しみに思うようにもなった。
色のなかった屋敷に、私の世界に色がつき鮮やかになっていった。
それはきっと彼女がいるから。
胸の奥にしまっておいた自分の中の様々な感情が彼女によって目を覚まし始めた。
そしてあの日、管弦の宴の夜、彼女に言った言葉。
あれは、あれではまるで。
紫乃から預かった桜の花びら。
これは彼女が元の場所に帰るために必要なもの。
あとは降り続く雨の時期の終わりの頃、そう、もうそろそろ・・・。
大きな嵐のような日がくるはず。そのときが彼女の帰る時。