愛しの君がもうすぐここにやってくる。
時空の歪みの中で彼女を見つけて、過去から迷い込んだのか未来から迷い込んだのか。
墨絵の雲を描いたような、はかない指先が見えて、そして次に見えた彼女の細い腕に迷うこともなく思わず手を伸ばした。
そのときは人間を見つけること自体、ないことだったから興味本位で連れ帰った。
彼女の持ち物の中に書かれた彼女の名前。
どうして地位のある姫君が迷い込んだのか、それからはただ何事もなく無事に帰すことだけを考えていた。
もし傷をつけるようなことがあれば、我が一族も面倒なことになってしまうから。
藤原一族の姫君を囲っているからと、そんなことで関係のない政権争いには巻き込まれたくはない。
だから厄介のものを持ち帰ったとそう思っていたこともあった。
でも本当はあの手を掴んだときから。