愛しの君がもうすぐここにやってくる。

彼に惹かれることから逃げていたけれど、結局逃れることはできなかったんだ。
やっとそのことに気づいたけれど。
でも今から彼は私が帰る話をするのだろう。
どういう思いで話すのだろう。

「以前にお話しした大きな風の日が来たら・・・」
やっぱり。
覚悟はできている。
私は苦笑しながら答えた。
「帰るんですよね・・・」
「ええ、そうです、前にもお話しましたが・・・。
実はあの話にはまだ後があって」
時親様はそこまで言って小さく息を吐いて、そして続けた。
「・・・紫乃が帰ったら、ここでの出来事の記憶はすべて消されてしまいます」
「え・・・?」

ちょ、どういうこと・・・?
ここで過ごしたことを全部、忘れてしまうってこと?
それって時親様のことも忘れてしまうってこと?
そんな・・・。

いつもいっそのこと忘れてしまえたらとか言っていたくせに、いざ忘れてしまうとなるとすごく苦しい、悲しい、辛い。

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