愛しの君がもうすぐここにやってくる。
世界中の悲観的な言葉を全部集めても表現しきれないくらいの嫌な気持ちだ。
どうして。
帰ることがはっきりしたというだけで、かなりのダメージなのに、それ以上に帰ってしまうとここで過ごしたことを全部忘れてしまうなんて。
「嫌だ・・・」
「紫乃・・・?」
「・・・嫌です!忘れるなんて嫌です!」
涙声で言う。
そっと時親様の手が私の頬へと伸びて、そして彼の指先は私の涙を拭う。
私はそのまま彼の指をぎゅっと握る。
少し冷たい指先。
でもとても優しくて。
彼は私を抱きしめる。
私も返すように彼の背中に腕を回して力を込めて抱きしめた。
「紫乃、・・・私も本当は貴女を帰したくはありません。
でもどんなに足掻いても貴女が帰るべき場所があることには変わりないのです」
「時親様・・・私、帰ることは・・・」
「紫乃」
私が帰りたくないと言おうとしていることを理解しているのか、彼は私の言葉を途中で遮った。