愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「しかし紫乃がここにいたこと、ここで過ごしたことを忘れてしまっても私は忘れることはありません。
だからどうかそれだけでも安心してください」
それでも、それでも、私は忘れたくない。
彼を困らせてしまうとわかっているから、我慢しようと思っていてもどうしても嗚咽がもれてしまう。
彼の私を抱く腕に力が入る。
私も応えるように力を入れる。
今、こんなにもはっきりと時親様の存在を理解しているのに、ぬくもりを感じているのに。
どうして、本当に、忘れてしまうのだろうか。
本当に忘れてしまうのだろうかと疑問さえもってしまう。
今こうして同じ時間の中を過ごしているのに。
どうして。