愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「まあ、紫乃様っ!
なになさっているんですか」
びっくりした表情の桔梗さんがやってきた。
思わず私は手を離す。
雀躍は首のあたりをさすりながら言った。
「おてんばと言うのか、じゃじゃ馬というのか」
「はあ?まだそんなこと言うん?」
再び手を伸ばそうとしたとき桔梗さんが制するように言った。
「どうか紫乃様、お客様が来られていますから・・・」
そして桔梗さんは少しだけ上げていた御簾をさっと降ろした。
え?お客様?
桔梗さんの後ろに少し初老の男性が立っていた。
御簾の向こう側にいるからそう思うのか、存在感があるような、ないような。
よくない意味の存在感がないというのではなく、そこにいるのにいないような。
まるで風のような不思議な存在。
静かにそこに佇む黒の狩衣姿はどことなく時親様と思い出させる。
「安倍晴明様です、時親様のお祖父様になるひとです」
男性は桔梗さんの横に並び頭をさげた。
そして桔梗さんは雀躍の方を向いた。
「雀躍、あちらで少し時親様の仕事の手伝いをしてほしいのですが?」
「わかった、行くよ」
雀躍は素直にそう答え、桔梗さんと一緒にその場を離れていった。
ふたりが離れて少しして晴明様は簀子の縁に腰を下ろした。