愛しの君がもうすぐここにやってくる。
また沈黙が続く。
そして今度は私から言葉を発する。
この人はなにか私に用があって来たはず。
ここに合わない生活をしていることを咎めにきたのか。
「あの・・・私になにか?」
恐る恐る尋ねる。
「ああ、そうでした。
先日は・・・、あの智徳法師のことでは怖い思いをさせてしまって申し訳ありませんでした」
そう言って彼は御簾の向こうで頭を下げる仕草が見える。
ああ、あれね、怖かったけれど、解決したし今はなんとも思ってないし。
それよりこのひとの声、雰囲気、どこかで?どこだっけ?
時親様のお祖父様であることはわかったけど、それだけじゃなくて。
どこかで。
「紫乃様がここに来てからこの屋敷はとても華やかになったと、私の耳まで届きました」
そしてにこっと笑う。
その笑顔。
あ、思い出した。