愛しの君がもうすぐここにやってくる。

そしてどれくらいの時間が過ぎたのか、彼が静かに私に話しかけた。
「・・・貴女の生きてきた場所はどんなところですか?」
晴明様が私の今感じている風の中の情景に入ってきて一緒にいるような感覚。
彼は私の情景を確かめるようにゆっくりと見渡している。

そして私はその一緒にいる感覚を確かめるようにゆっくりと話し始める。
「両親がいて、兄がいて、それから友人・・・、
学校の勉強は嫌いだったけれど、放課後に友人達とカラオケ行ったり、繁華街歩いて寄り道したり」
はじめぼんやりとしていた場面が自分の話す言葉によってはっきりと現れてくる。

あれこれ笑顔で話をしていたはずなのに、話して場面がどんどんと鮮やかに心の中によみがえり、胸のあたりがつかえて苦しくなる。
そしてとうとう声がうわずり涙がこぼれた。

「その涙が貴女の答えなのですよ」

――私はこの時代の人間じゃない。
だから帰らなければならない、帰るべき場所があるのだ。
悲しいからとか辛いからとか、そんな感情から逃げないでちゃんと向き合わないといけない。
どんなことがあったって、そうなんだと運命を受け入れて
そしてまた前を向いて進んでいかなければ。
ああ、あのときもそんなこと、思ったっけ?

河原町から見た夕陽。
晴明様と話をしていると不思議と言葉すべてか過去にリンクする。
やはり彼が不思議な力をもっているからなのだろうか。
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