愛しの君がもうすぐここにやってくる。

そして河原町から見た夕陽はそのまま時親様と一緒に見た夕陽と同じ。
懐にしまっていたアメジストを取り出してしばらく見つめてそっと握る。

そんな私の姿を見て晴明様が言った。
「紫乃様、その石、よほど大切なものと見えますが?」
その声に顔を上げる。
「はい、これはここで時親様と一緒に過ごした証拠にもなる石で・・・」
そう答えて再び視線を石に落として見つめる。

晴明様は顎に手をやり、少し躊躇したように言った。
「紫乃様・・・、残念ながら、それは持って帰ることはできません。
この世界で手に入れたものは持ち帰ることができないのです」

え・・・?

そんな。
ここで過ごしたことも忘れてしまって、そのうえ、この石も持って帰ることができないの?

たとえ忘れてしまってもこの石があれば、と自分を今まで慰めてきたのに。
言葉が出ない。

ふたりの間に沈黙が流れる。
そしてゆっくりと清明様が口を開く。
「それは・・・紫乃様にとってとても大切なものなのですか?」
「はい・・・」
そう答えるだけで精一杯。
私はなにをもとの世界に戻ってなにを頼りに過ごせば・・・。
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