愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「…ここの主人は時々、変わったものを持って帰ってきますが…。
人間は初めて。
しかも貴女、出家されたように髪が短いですし、着ているものだって…」

そう言ってくすっと笑う。
今度は私のほうが不思議な顔になってしまう。

私…
タイムスリップした夢をみている…とか?
うん、そうきっとこれはタイムスリップした夢の中の出来事だ。

「今は不安でしょうけど、きっとね、
主人が貴女が無事に帰れる方法、探しているから安心してくださいね」

「え?」

心配そうに顔をしてのぞき込むよう私を見ると綺麗な漆黒の髪がサラリと揺れる。

「…綺麗な髪ですね」
ぼんやりとした頭で彼女に言う。
確かこの時代では綺麗な黒髪は美人の条件とか言ってたっけ。

何歳くらいなんだろう。
私と同年代?
でもさっき主人って言っていたし結婚はしているのかな。

「ふふ、ありがとう」

嬉しそうに彼女は答え、そして思い出すように言った。

「そうそう、帰るまでしばらくはここで過ごすことになりそうですし、
いろいろ準備しましょうか」

そして立ち上がり、ゆっくりと私から離れて行った。

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