愛しの君がもうすぐここにやってくる。
思い出を置いていくのか・・・。
でも大丈夫。
このアメジストがあるから。
それにここで過ごしたことを忘れて記憶がこぼれおちたとしても。
でも身体には残っているはず。
欠片だけでも。
そう思いたい。
「ありがとうございます」
もう一度、そう言ったとき涙声になる。
「紫乃らしくない・・・」
そう言う雀躍の声も心なしか震えている。
「雀躍こそ・・・。
だいたい、別れに涙は禁物なんやからね」
そう言ったものの、ぼろぼろと涙が落ちる。
だめだ、やっぱり悲しいものは悲しい。
「どうかお元気で」
桔梗さんが言う。
小さくうなずき、そして私は時親様の方を見る。
彼はなにも言わずに静かに私を見つめていた。
そして私の側に来て菜の君の桜の花びらを私の髪に飾る。
「紫乃には結界の中に入ってもらいます。
そしてもうすぐ来る大きな風が雷と雨を運んできます。
そのときに私が力を乗せると時空を開き、そこから元の世界に戻ることができます。
私の形代が紫乃の世界まで導いてくれますので、お持ちください」
そう言って私に桜の葉でできた形代を持たせた。
時親様が目を閉じて手を上げ大きく空を仰ぐ。
「ああ、もうそろそろですね」
そして私も空を見上げる。