愛しの君がもうすぐここにやってくる。
「そうだ、藤原さん、今度、大学の時の友達が結婚するからご祝儀袋に名前書いてくれないかなあ?」
思い出したように中西さんが言った。
「うん、かまへんよ」
私は豆腐ステーキの最後の一口を食べて答えた。
「それにしても藤原さんって筆文字が上手だよね、
っていうか草書?行書?っていうのか、よくわかんないけど書けるってすごいよね」
「そうそう、私もそれ思う」
大きくうなずきながら佐野さんも中西さんに続いて言った。
「うーん、なんでかなあ」
本当にそれはどうしてなのか私にもわからない。
「それに琵琶も弾けるんでしょう?
なんだか古典的ねぇ。
平安時代の深窓のお姫様みたい」
佐野さんが言った。
「え?お姫様?
藤原さんが?」
くすくすと肩をふるわせて笑いを堪えるように中西さんが言う。
「ちょ、失礼やねぇ。
でもまあ、そうなんやけど、なんでできるのか私にもよくわかってへんのよね。
どっちも習っていたわけでもないのに」
「最初にうちに配属された自己紹介で藤原さんが「趣味は琵琶です」って言ったとき、え?枇杷?とか思って意味がわかんなかったよ」
思い出すように中西さんにつられて笑いながら佐野さんが言った。